言葉の羅針盤

書評
あなたの言葉は、あなたに届いていますか。

評者:岩間 華奈子生まれてから、気づけば誰かの支えを受け、なにかの指標の示すままに進んできたように思う。しかしあるときから「まえぶれもなく」、自分の足跡を目の前のまっさらな地面に残していかなければいけないことを、次第に私たちは知っていくのだろう。
 
 
「あるときまでは、自転車に補助輪をつけて走っていればよかった。しかし、何のまえぶれもなく、ひとりで、未知なる道を走らなくてはならない日々がやってくる。」(本文より)
 
 
誰かに正しい答えを教えて欲しいと思うときがある。

だがその誰かに答えを求めたとしても、それはその誰かの視界の中の答えでしかない。誰かの言葉はその誰かの中から導かれた言葉であり、その誰かだけの答えだからだ。
 
 
「誰かの言葉の中にきっと答えがある。」「誰かの言葉に救われたい。」

私たちは自分以外の誰かの言葉に、多くの答えを求めてきたのかもしれない。だが私たちは自身の問いの本当の答えを、自身の胸の内にすでに秘めているのだ。

その答えへの羅針盤ともいえる本が、文字通り、本書「言葉の羅針盤」である。
 

本書の概要

著者は批評家・随筆家である若松英輔(わかまつ・えいすけ)。

本書「言葉の羅針盤」は、若松氏の「言葉」をテーマの起点に置いた25の詩とエッセイ集だ。

一つ一つの詩とエッセイはシンボリックなタイトルと共に、ときに他の著者の書籍の引用を組み込むことで、より深く広い印象を読み手に与えてくる。

本の節目節目に登場する著者の詩は詩のかたちを呈することにより、言葉の表現の多様さと奥深さを私たちに教えてくれるようだった。
 
 
著者の若松氏の書評を書くのは、「種まく人」に続いて二度目だ。

若松氏の書籍において、速読はあまりおすすめしない。著者の記す一語一語は、まるで水彩画のように、私の心に淡くも彩り溢れるにじみを与えていった。

一語一語が、じんわりと染み込んでくる感覚だ。だからこそ、その染み入る前と後の心の情景の変化をじっくりと感じ取りながら、ゆっくりと時間をかけて読むことをおすすめしたい。
 

自分を導く言葉の羅針盤は、すでにあなたの中にある

自分自身からの曇りのないまなざしを、今までどれほど気が付くことが出来ただろう。

自分自身からのこの自分への幾つもの言葉を、今までどれほど聞き取ることが出来ただろうか。
 
 
「人生の海にいると方角が分からなくなることがある。地図を持たない旅人のようになる。そうしたとき、私たちを助けてくれるのが言葉だ。言葉が、人生の羅針盤になる。さらにいえば、言葉こそが、もっとも確かに私たち個々の生の行方を指示してくれるのではないだろうか。」(あとがきより)
 
 
あなたの行く先を示してくれる言葉の羅針盤は、すでにあなたの中にある。

そしてあなた自身は、今もあなたに言葉を伝え続けているだろう。

「わたしの言葉よ、わたしに届け。」と。

書籍データ

タイトル言葉の羅針盤
著者若松 英輔
出版元亜紀書房
初版発行2017/08/10
amazon.co.jphttps://www.amazon.co.jp/dp/4750515175