ひきこもりはなぜ「治る」のか? 精神分析的アプローチ

書評
手堅い理論に支えられた、心に読み手に優しい一冊

評者:岩間 華奈子ひきこもりはなぜ治るのか。

そもそも「治る」という定義はそれ自体に問題があると捉え、それをどうにかしたい・解決したいという想いがあるからこそ生まれるものだと、私は考える。

ひきこもり自体は病気ではない。それに対する具体的な対処法も処方箋もない。だからこそ、その当事者や家族を含む周りの人間はその解決の糸口を見つけるべく、ひたすら暗闇の中を手探りで模索し続ける。

そう、具体的で正確で100パーセント効果のあるマニュアルや「治し方」は存在していない。そしてその反面、ひきこもりは治療によって「治る」こともある。この過程には一体何が存在し、私たちは具体的にどう考え、何を選択し、どう対応していけば良いのだろうか。
 

本書の特徴
“手堅い理論に支えられた、心に読み手に優しい一冊”

本書は医学博士であり、精神病理学や精神分析を用いてひきこもり問題に関する多数の著書をもつ斎藤環(さいとう・たまき)氏によって、ひきこもり問題をラカン・コフート・ビオン・クラインの四つの理論を軸に精神分析的アプローチでもって解釈し、その背景にある社会問題を踏まえながら、ひきこもりの人が「より自由に」「救われて」「静かで豊かになれるため」の考え方や接し方などが事細かにわかりやすく、読み手に対してとても優しいタッチで書かれている。

著者自身、実際に長年治療者としてひきこもり当事者やその家族からの相談や臨床治療を行い、様々なパターン・形式のひきこもり問題(本人だけでなく、家族間の問題や社会背景など)に接してきたからこそ、なかなか外側には知られないひきこもりの裏に隠された心理や複雑性をここまで紐解き、より「現実的な」解決策として提示出来たのだろう。

ひきこもり本人の葛藤や悩み、誰にも相談出来ない苦しさへの配慮や、その家族の抱える苦悩やひきこもり問題の理解の難しさへのアドバイスを、読んでいても苦しくならず具体的に知ることが出来る。
 

ひきこもり本人が「自由になる」ために

ひきこもりというものは病ではない。なぜひきこもりが起こるのかという原因を問い続けるのではなく、ひきこもりと共存していくという選択をすること。

「この困った状況にどう対処したか」という現実を見る力、「その結果どうなったか」と冷静に解釈する観察眼、そして「これからどのようになりたいと思うか」という風通しの良い希望を持ち、ある程度の継続性を持って付き合っていくことが、ひきこもりが「治る」=ひきこもり本人が「自由になる」ことへの道筋となるのだ。と、本書を読み浸りながらしみじみと納得させられた。
 

おわりに

ひきこもりを知ること、それは「人間」そのものを知ること。そう著者はあとがきで語っている。

人間の生き方に正解が無いように、ひきこもりにも正解は無い。人生と同じように、試行錯誤した先に過去の失敗や挫折が今の人生に彩りを添えてくれるように、ひきこもりに対しても、本人や家族や周りの人間が試行錯誤した先に見えてくる新しい景色が必ずあるはずだ。今までもこれからも私はそう信じている。

本書はその手引きや指針としておすすめ出来る良本だ。

書籍データ

タイトルひきこもりはなぜ「治る」のか? 精神分析的アプローチ
著者斎藤環
出版元ちくま文庫
初版発行2012/10
amazon.co.jphttps://www.amazon.co.jp/dp/4480429956/