「ひきこもり」救出マニュアル 実践編

書評
この本について

評者:ゆう「あなたは本当は何がしたいの?」これはひきこもり当事者に言ってはいけない。将来の話題は禁句であると本書の中で指摘されている。理由は、ひきこもりにとって「未来」とは「不安」だからである。ひきこもり経験のある私は思わず大きくうなずいてしまった。読んだだけでカウンセリングを受けたような「憑き物」がとれたような心持ちになった。

著者の斎藤環氏は、精神科医。「ひきこもり」診療の第一人者としてメディアに度々登場する。本書には、いわゆる「精神論」はほぼない。具体的かつ実践的な内容になっている。「どんな話題がよいか」「暴力をどう拒否するか」「親はいつまで面倒を見たらよいか」など著者がひきこもり家族からのさまざまな疑問に答え、ひきこもりから抜け出す手だてを示す。

読んでカウンセリングを受けたような気持ちになったのは、読書を通じて「理解してもらった」と感じたからだと思う。理解にはコミュニケーションが欠かせない。著者はこれまで多くのひきこもりやその家族と臨床を通じかかわっている。治療以外の支援活動、啓蒙活動も行う。そのため著者はひきこもり本人以上にひきこもりを理解していると感じる。

しかし世間には、ひきこもりに対する誤解や偏見は少なくない。いまだにやる気や気合いの問題とする見かたもある。ひきこもりが社会から受けるプレッシャーは依然として大きい。当事者にとっては、家族も例外ではないかもしれない。

家族が将来や同世代の就職・結婚を話題にしたり、ひきこもりに関する書籍をすすめたりするなど「無理解」な態度をとれば、本人は傷つき、不信感をいだく。そして家族を遠ざけ、ひきこもりを深めてしまう。なぜなら自分を理解しようとしない相手に本音を言ったり、助けを求めたりするのはむずかしいからだ。実際にもう長いあいだ本人と対話をしていない家族が少なくないことは本書からうかがい知れる。

「一人でいても何も起こらない。人といるといやなこともあるけど、何かが起こるんですよ」本書の中で紹介されている当事者の言葉だ。たった一人の理解があれば、「外」へ踏み出し、他者とつながりを求める活力も湧いてくるのではないか。そして自立の過程で他者と関わることの喜びを実感するのだと思う。ひきこもりへの理解を示す本書は、心の距離が開いてしまったひきこもり本人と家族をつなぐ架け橋になるような一冊である。

書籍データ

タイトル「ひきこもり」救出マニュアル 実践編
著者斎藤環
出版元ちくま文庫
初版発行2014/06
amazon.co.jphttps://www.amazon.co.jp/dp/4480431683/